ひと冬の想い出 SNOW
ユウレイ…幽霊⁈


いや落ち着け私。


そう考えれば確かにつじつまがあう。


私が知らない場所にいたことも、記憶が混乱しているのも、私が彼の家にいても彼が驚かなかったことも。


そっか、私…幽霊なんだ。


はじめは驚いたけど、今はかなり落ち着いていた。


うん、情報処理能力は高い方ですから。


「えって、幽霊じゃないの?」


「今気がつきました。私幽霊みたいです。」


確かに思い返せば、今日扉に触った記憶がないのに、たくさんの部屋を出入りした。


気が付かぬうちに、すり抜けていたみたい。


言われてようやく気がつくなんて、間抜けすぎ。


「なんか、ごめんなさい。」


私もなんども頭をさげる。


人様の家に勝手に上がり込んだ上に幽霊だなんて。


あー、私なんでこうなっちゃったんだろう。


「へー、幽霊って自分で気がつかないものなんだ。」


彼はよくわからないところで感心していた。


私のことも特に困ったり怒ったりしていないみたい。


うーむ、彼の性格がよく掴めない。


「自己紹介まだだったね。俺は小鳥遊優人。大学1年の19歳。よろしくね。」


そう言って手を出してくれる。


握手を求めているのが私にもわかった。


「私は、大嶋雪乃。同じく大学1年ですが、誕生日がまだ来ていないので、18歳です。よろしくお願いします。」


私も笑顔で手を出し、彼と握手を交わす。


彼の手が、私をすり抜け宙を仰いだ。


私は、自分の手を見る。


そうか、私は人に触れないんだ。


「残念…だね。」


悲しそうに彼が笑う。


見知らぬ私ごときでそんなに顔を曇らせてくれる。


優人って名前の通り、きっと彼は優しい心の持ち主なんだ。


「本当に、残念です。それより小鳥遊さん。」


私は小鳥遊さんが座っている後ろの壁に飾ってある、アンティークの時計を指差した。


時計の針は8時を指している。


「大学、何時からですか?」


「えっ?…あっやば〜。」


小鳥遊さんは「やば〜」という割にはゆっくりと立ち上がり、自分の部屋へ入っていく。


数分経つと部屋から荷物を持って出てきて、玄関に向かった。


私も慌てて後を追う。


「部屋のものは適当に使っていいから。」


「はい。」


靴を履きながら言う彼に返事をして、玄関の棚に置いてあった車のキーを渡した。


小鳥遊さんは19歳だから、もう車に乗ってるってことだろうから。


小鳥遊さんは私からそれを受け取った。


「ありがとう。」


扉の手すりに手をかけた小鳥遊さん。


「いってらっしゃい。」


思わず出た言葉に、小鳥遊さんは一瞬固まり、


「いってきます!」


振り返って、私に笑顔で告げた。




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