ひと冬の想い出 SNOW
適当に使っていいと言われても…


人様の家を荒らすほど、私は恩知らずではないのです。


「ふむ。適当にとは、とても困る単語ですね。」


仕方なく、まずは移動することにした。


リビングに戻ると、小鳥遊さんが使ったコーヒーのカップとお皿が目に入る。


でも、その他のところは綺麗。


つまり、今日は時間がなかったからたまたま片付けるのを忘れたってこと。


私は一息つくと、手首にしていた髪ゴムで肩まである髪を一つにまとめた。


「片付けておきましょう。」


やることがないのなら、家事をするに限る。


せめてもの、恩返しになるはずだから。


私は食器を持ってキッチンへ行く。


シンクに食器が置いてないから、小鳥遊さんは、普段洗い物をためておかない人。


置いてあったスポンジに、おいてあった石鹸を付けて食器を洗う。


二つしかないからすぐに片付いた。


私は周りを見渡す。


うーむ、やはりやることがない。


…仕方ない、部屋を詮索でもしますか。


キッチンの真横にあるのは、小鳥遊さんのでてきた部屋。


つまり、彼の自室。


「ここは入らないほうがいいですね。」


続いて玄関に近い扉。


無意識に扉を通り抜ける。


そこは洗面所とシャワールーム。


洗面所もかなり掃除されている。


「掃除が好きなのでしょうか?」


洗面所をでて、リビングの隣にある部屋へ入る。


畳が敷いてあり、神棚もある。


それぞ和室って感じの居心地のいい部屋。


それに、壁一面と言ってもいいほどの本の量。


ざっと200冊はあると思う。


本好きにとってはとてつもなく愛しい空間であります。


勝手に物色するわけにもいかないので背表紙だけ眺める。


-ピー


ふいに機械の音が聞こえ、私は和室を出た。


和室と小鳥遊さんの部屋の間にあるのが、トイレだということは知っている。


ピーの音の正体は、多分洗面所に置いてあったもの。


廊下を歩き、洗面所に入る。


「やっぱりそうでしたか。」


洗濯機が、弱々しく洗濯終了のホイッスルを鳴らしていた。
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