ひと冬の想い出 SNOW
「雪乃は人には触れられないけど、ものには触れるんだね。」


私もそう言われて気がついた。


干されている洗濯物、洗われた食器、開けられた窓…。


「確かにそうですね。」


小鳥遊さん本人には触れることさえできないけれど、ものには制限なく触れられるようだ。


昔見たテレビで、「幽霊がものに触るのは一苦労だ。」なんてその手の専門家が言っていたのは、間違ってたんだな。


ほんと、人間て都合のいいように物事を考えて、膨らませて話している生き物だね。


「雪乃。ここに座って。」


私はソファとガラスの机の間、カーペットの敷かれている床に座らされた。


小鳥遊さんはガラスの机を挟んで向かい側に座る。


小鳥遊さんはペンとA4サイズの紙を取り出した。


そして、楽しそうに、しかし真剣に、ある一言を切り出した。


「さて。早速だけど、雪乃がどこから来たのか、どうしてこうなったのか、今後どうなるべきなのか、とか考えていこう。」


私はその言葉に一瞬フリーズし、小鳥遊さんの意図を読み取ることに専念した。


つまりまとめるとこうだ。


私はまず自分が何をしてたのかは覚えているものの、途中途中の記憶が抜けているのは確かである。


また、どうして幽霊になったのかもわからない。


その辺をどうするか考えていこうということだ。


私が小鳥遊さんの提案を拒否する理由は、一つもない。


私は、きちんと考えていかなくてはならない。
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