ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
時々ドスを効かせる唇は下の方が肉厚で、口角が少しだけ上向き。
顔全体の彫りが深くて羨ましい。
あっさりした顔だちの自分とは、まるで正反対のようだ。


(こんなモテそうな人がナゼ私と……?)


これはやっぱりおとぎ話の続きなんじゃないだろうか。
連れてこられた場所も海の世界だし、話の中に登場する人物みたいな気分だし。


(まぁいいか。今回限りと思って付き合おう)


郁也とのデートはいつも楽しめなかった。
ホラー映画は好きでもなかったし、アミューズメントパークもどちらかと言えば嫌いな方。


(…かと言って、水族館が好きなわけじゃないんだけど)


まだ少し傷ついてる心を癒しに来たとでも思おう。
そしたら、少しは楽しめるかもしれない。


エスカレーターを上りきると、大きな水槽の世界が広がった。
近隣の海で見られる魚が展示されていて、それなりに面白い雰囲気だった。



「おっ!ウニだ!」


アワビもいるぞ、と喜んでる谷口。



(この男、まるで子供みたい)


魚見てるよりも谷口見てる方が面白いかも。


「なんだよ」


私の顔を覗き込んでる。


「いえ、別にどうも」


ヤバい。見てばかりいるとマズい。


水槽の中に視線を向けた。
ヒレを動かす魚の姿に暫しボォ〜と見惚れる。




(……いいなぁ。魚は呑気で)


外敵とかいなくて、ストレスも無さそう。
私なんか人と話すのが苦手過ぎて、オフィスではいつもストレスだらけなのに。


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