ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「魚っていうのは気楽でいいよな」


頭の上から声がする。
見上げてみると谷口の視線も水槽の中に注がれてる。


「水の中にいると悩みなんて無さそうだな。飼育環境も整ってるし外敵もいないし」


同じこと思ってる。
それだけで少し親近感が湧いた。


「敵がいたら食べれるじゃん」


思ってることと反対のことを口にする。


「ホタルは現実的だな」


谷口の視線が下を向く。


「だって、ホントのことだし」


視線を逸らして前を向いた。


「あれ、このフグ……」


尾びれがボロボロ。
病気とか?


「ああ、フグは共食いするって聞いたことがあるな。弱いものはヒレとかに噛み付かれるんだって」

「えっ…じゃあイジメみたいなもん?」


思わずフグの様子を見入った。
噛み付かれてるのはどうやら一尾だけじゃない。


「怖いね。人間みたい」


弱肉強食の世界ってわけ?


「どんな世界でも似たようなことがあるってだけだろ」


次の展示へ進もうとする谷口の背中を見ながら歩き出す。
水槽の中を覗く人達に目を向けると、人間の方が展示されてるような気がしてくる。


魚から見れば私達の方が面白い生き物に見えるかもしれない。
その中でも私の存在はどんなふうに映ってるんだろう。


(あ…そう言えば、キラキラした魚の絵本がなかったっけ)


光る鱗を持った魚の話。
自分の光る鱗を怖がる魚達に仲間はずれにされるって話だった。


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