ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
でも、さっきからさり気なく歩くのをエスコートしてる。
人にぶつかりそうになるとスッと手を出して避けさせる。

ヤバい関係の人かなと思ってたけど、もしかしたら違う?

案外、普通の人なのかもしれない。



「ホタル、イルカプールだって!」


ほら、変なとこでテンション高いし。


「ショーがあるぞ!見に行こう!」


子供か、あんたは。


「いいけど」


そこまで喜ばれたら行ってやらないと反則だしね。


観覧席のある場所はクーラーも効いてないから暑い。
ムンッとする熱気に包まれながら、プールに近い席に座った。



「ねぇ、ここって水飛沫がかかるんじゃないの?」


目の前を通り過ぎるイルカ。
近くてよく見えるけど、嫌な予感がする。


「いいじゃねぇか。近い方が面白い」


そりゃね、あんたはいいよ。
前開きのシャツにカーゴパンツって軽装だから。

でも、私の服は借り物なの。
しかも、絶対高級ブランドの服だし。


(あーーん、水被りたくないよーー!)


真綾になんて言って謝る!?
もっと後ろの席に行きたい。



「ねぇ、谷口さん…」


今日初めて名前呼んだよ。


「大輔でいいよ」


呼び捨てなんてできるわけないじゃん!


「ででで、でも…」


躊躇ってるうちに逃げられなくなった。
埋まっていく観覧席を見つめ、もういいや…と観念する。


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