たとえばモラルに反したとしても
 途端にパキンと浩がポッキーをかみ砕いた。

「あれ? いいの、浩」

 チョコレートの部分だけになったポッキーをポリポリと口の中へ押し込みながら笑って浩に尋ねると、びっくりしたネコの様な目になりながら浩はしばらく桐華を見つめて、それから我に返ったようだ。

「わ、わあ! もったいないことしちゃった! びっくりして噛んじゃった!」

 わざとらしいほど大きな声。

 歌っている美羽が「浩、うるさい!」とマイクで注意。

「ごめん! 美羽ちゃん! そして宮ちゃん、もう一回お願い!」

 ポッキーを差し出してくる浩に、桐華は笑う。

「もうポッキーいらない。喉が乾くもん。また今度ね」

 ええ~、なんて残念がる浩。

 ちっとも本気じゃない。


 もう、これぐらいでいいんじゃない?

 ね、浩。


「遅くなったし女子、送ってくか」


 カラオケが終わって雑居ビルを出たところで、そう言い出したのは弓弦。

 桐華と美羽とアミの三人を誰が送って行くかと話す。

「アミちゃんはもちろん神森だよね」

 浩が笑って言うと、圭祐はすっと目を伏せてそれから低い声で「ああ」と同意した。

「えっと、美羽は……渚が近い?」

 弓弦が言うと、すぐに浩が手を上げた。
< 10 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop