たとえばモラルに反したとしても
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朝の光の中、机に伏せているクラスメイト、三好の前に立って桐華は腕を組んだまま見下ろす。
それから「ちょっと、三好」と呼びかけた。
もうほとんどの生徒が登校しているから、ザワザワとうるさい。
それでもちゃんと桐華の声は届いたようで、三好は鬱陶しい長い前髪を揺らしながら机から顔を上げた。
地味で目立たない男子生徒。正直、登校しているかどうかも、今までなら気がつきもしない相手だ。
外していた眼鏡を掛けてから、かくんと首を傾げて桐華を見上げる。
なに? と問うているのだろうか。
「ちょっと話があるから来てくれない?」
「今?」
「そう、こっちで」
驚く三好を無視して桐華は教室の入口へと足を進める。
ギイッと椅子を引く音が背中で聞こえるから、三好は立ち上がったのだろう。
二人して廊下へ出て行くのを、弓弦と浩がチラリと見遣ったのが分かったけれど、気にせずに桐華は廊下を進んだ。
階段を下りてひとけの無い理科実験室の前で立ち止まって振り返る。
同じように立ち止まった三好は、また首を傾げて桐華の方を見ている。
多分、見ていると思う。
なんせ前髪が長すぎて顔立ちなど分からない。
ただ眼鏡の奥の目がこちらを向いていると感じるだけだ。