たとえばモラルに反したとしても

 三好を置いたままで先に教室に戻る。

 間もなく予鈴がなる時間だけれど、まだみんなバラバラにしゃべっていて教室内に不協和音が響いているようだった。


 うんざりとする耳障りな雑多な音。逃げ出したくなる。


 美羽が弓弦たちと話していたから、すぐに聞かれた。

「三好と話しって珍しいね! 何か用事?」

「ん、まあね」

「ふ~ん、ていうか、あいつ、言葉しゃべれるんだ」

「なにそれ?」

「だってほとんど誰とも絡まないし授業中もあんまり答えないし、存在自体忘れてるって言うかぁ」

 美羽のヒドイ評価の仕方に桐華は苦笑する。
 けれど美羽のその言い分は、そのまま桐華の言葉と同じ。

 昨日、あんなことが無ければ、三好のことなど一年間しゃべることもなければ構うこともないままに終わるだろう。

 それほどに接点のない男子だ。


 さあ、と桐華はフッと小さい笑いを零す。


(さあ、どうやってあげようかな……)

 今から楽しみだと桐華の頭の中はそのことばかりだった。

 ほとんど他人に興味を持たずにいるのに、三好を手に入れたような気持ちにはなぜか少なからず浮ついてしまっていた。

 地味な男子の裏の顔を、覗き込んでしまいたい衝動を桐華は抑えられなかった。
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