たとえばモラルに反したとしても
****
住宅街の中にある普通より少し大きな一軒家。
洋風の洒落た外観。
門を開けようと手を掛けた時、声を掛けられた。
「桐華、ちょっと話があるんだけど」
声で相手が分かるから、わざとらしいほどゆっくりと振り返って桐華は尋ねた。
「話? じゃあ……家、入る?」
「……いいの?」
一瞬、躊躇したようだけれど、呼びかけた相手はすぐに桐華に近寄って、そして鍵を取り出す桐華の背後に立った。
「入れていいの? 俺を」
「……別に、どうぞ」
抑揚のない声で答える桐華に小さな溜息をこぼす。
「変わんないね、桐華」
その言葉に桐華は苦笑する。
変わりようがない。
何一つ変化のない日々に、何を変わればいいと言うの?
ああ、と背後に立つ相手のことを思い返して桐華は笑いながら言った。
「そう言う圭祐は変わったね。彼女出来て。あんな可愛い子と付き合うなんて、結構目立ってるよ?」
「……そうだな」
小さく同意する幼なじみ、神森圭祐の声を背中で聞きながら、差し込んだ鍵を回す。
ガチャン、と重たい鍵を開ける音をさせてから桐華は扉を大きく開いた。
どこかで警告を促す光がちらつくけれど、一度瞼を閉じると、桐華は振り返って背の高い相手を見上げて迷いなく告げた。
「どうぞ」
シンとしたひとけのない家に圭祐を招き入れた。