たとえばモラルに反したとしても


 いつの間にウトウトしていたのだろう。

 スマホの着信に桐華は慌てて起き上がる。

 リビングのソファーでテレビも電気も付けっぱなしだった。

「……はい」

 通話と同時にスマホの向こうからざわめきが流れてくる。
 相手が眠らない夜の街にいることが手に取るように分かる。


『もしかして寝てたの?』


 含み笑いの声に、桐華はいくらか機嫌を損ねる。

 まるでお子様だね、とからかわれた気分。


 相手は、昼間と同じ声。


 教室では聞いた事のない明るいトーンの声を上げる、三好の声だった。

 ちらりと壁の時計を見上げると十二時をいくらか回ったところ。

 今からどこかで待ち合わせるのも面倒だった。

「ねえ、今から家に来て。そこから二駅だし、駅からも近いから」

『……いいけど。今から行ったら僕、帰れないけど。もう終電だし』

「そう? あたしの知ったことじゃないわ。今から来なさいよ」

 しばらく沈黙が落ちる。

 少し強引だったかと思いかけた時、小さくクスリと笑いを零した。

『お姫様の仰せのままに。お姫様の前では、男は全て憐れな下僕ですから』

 全く屈していない声音でクスクス笑いながら、三好は道順を尋ねてから通話を切った。
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