たとえばモラルに反したとしても
(あいつ……本当に来るつもりかしら?)

 なんだかからかわれたような気がする。

 実のところ、確信はしていたけれど確証はないから、本当にあの地味な三好があの派手なホストだったのか、桐華はまだ少し不安だった。

 それに今の電話だって、道順まで聞いているけれど、『行く』とは確約していない。

 何となく、あのチャラい風貌から、からかって約束などすっぽかしそうな気がした。



 ピンポン、と玄関のチャイムが鳴った時、桐華は必要以上に心臓が跳ねた。


 ――まさか、本当に来るなんて。


 ゆっくりと玄関に向かう間も緊張して指先が震えていた。

 どうして、あんな地味男に会うのに緊張してしまっているのか桐華は自分の気持ちが分からなかったけれど、玄関の鍵を回す時には思わず息を飲み込んでしまった。

 ゆっくりと扉を開く。

 そこに立っていた彼が、どうも、と軽く手を上げて笑った。


 整えた黒髪と、幼く見えるような二重の目。

 黒のスーツに白のシャツ。

 胸元のシルバーのアクセサリーは昨日とは違う物。


 ホストスタイルの三好が艶を含んだ雰囲気のまま、玄関先に佇んでいた。

「こんばんは、お姫様。憐れな下僕は参上いたしましたが?」

 小首を傾げてこちらを見下ろす姿。


 なんて……

 なんて自信に満ちあふれて、そしてわがままな目をしているのだろう。

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