たとえばモラルに反したとしても
 三好のスーツを握りしめている手が震えている。


 怖いの?
 それとも期待しているの?


 何も考えられないほど真っ白な脳内。

 進むなと――

 危険を知らせる声が頭の片隅で聞こえるけれど、すべて無視する。


 一度ゆっくりと瞬きをした三好が、綺麗な笑みを浮かべた。


「お姫様の……仰せのままに」


 おどけたように軽く頭を下げてから、桐華の背中に手を回した。


****


「宮、どうしたの?」

 美羽に声をかけられて我に返る。
 弓弦と一緒に美羽も浩も桐華を見下ろしていた。

「あ……少し眠たいだけ。昨日、夜更かしして」

「ダメだよ、宮ちゃん! 夜更かしは大敵。宮ちゃんは美人なんだから、もっと早く寝なくっちゃ! 女性は肌が命でしょ!」

「おまえはどこぞの美容コメンテーターかよ」

 突っ込んだ弓弦に、あはは、と浩が相変わらずの声で笑う。 

 少し耳に響く。
 頭が痛い。

「でもそんなアンニュイな宮ちゃんも俺は好き!」

 ね、ね、と浩はグッと身を乗り出して調子よく続ける。

「宮ちゃん、何をしていても美人! ね、俺と付き合って?」

「浩、うるさい」

「もう、美羽ちゃんには言ってないし!」

 すかさず答えた美羽がシッシと犬を払うようなジェスチャーをしている。

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