たとえばモラルに反したとしても
****
宮、待って、と弓弦は急いで桐華の手を捕まえた。
折れそうなほど細い桐華の手首に、弓弦の胸の奥底にチクリと僅かな痛みが走る。
こんなに細い桐華を、この手で包むように強く抱きしめてしまいたいと、そんな気持ちに突き上げられそうになる。
それは甘い痺れを指先にまで走らせた。
「……なに、弓弦?」
振り返った桐華の目が少しだけ迷ったように見える。
彼女が少しだけ体を固くしたのが分かったけれど、それに気がつかないフリをして手を引いた。
ドーナツ屋を出てばらけた後。
どうしても話をしたかったんだと告げると、桐華は小さく溜息をこぼした。
「なに、弓弦。もし急ぎじゃなかったら今日は帰りたいんだけど」
いくらか迷惑そうな桐華の表情が、今度は冷たい痛みを走らせる。
「宮、俺のこと避けてる?」
単刀直入に聞くと、さすがに驚いた目を見せた。
「急に……なに?」
「急じゃない。一昨日も送らせてくれなかった」
ああ、と桐華はいくらか思案するように首を傾げた。
それからふうと溜息を吐き出して呆れたように言った。
「あたし、用事があるって言わなかった?」
「あんな時間から?」
「……うん、ちょっと……人と会うことがあったの」
スッと目を逸らせて俯いた桐華の態度で、何となく感じ取る。
単なる勘とか、そんなもんじゃない。
確信に近いものだったと思う。