たとえばモラルに反したとしても

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 宮、待って、と弓弦は急いで桐華の手を捕まえた。


 折れそうなほど細い桐華の手首に、弓弦の胸の奥底にチクリと僅かな痛みが走る。

 こんなに細い桐華を、この手で包むように強く抱きしめてしまいたいと、そんな気持ちに突き上げられそうになる。

 それは甘い痺れを指先にまで走らせた。

「……なに、弓弦?」

 振り返った桐華の目が少しだけ迷ったように見える。

 彼女が少しだけ体を固くしたのが分かったけれど、それに気がつかないフリをして手を引いた。

 ドーナツ屋を出てばらけた後。
 どうしても話をしたかったんだと告げると、桐華は小さく溜息をこぼした。

「なに、弓弦。もし急ぎじゃなかったら今日は帰りたいんだけど」

 いくらか迷惑そうな桐華の表情が、今度は冷たい痛みを走らせる。

「宮、俺のこと避けてる?」

 単刀直入に聞くと、さすがに驚いた目を見せた。

「急に……なに?」

「急じゃない。一昨日も送らせてくれなかった」

 ああ、と桐華はいくらか思案するように首を傾げた。

 それからふうと溜息を吐き出して呆れたように言った。

「あたし、用事があるって言わなかった?」

「あんな時間から?」

「……うん、ちょっと……人と会うことがあったの」

 スッと目を逸らせて俯いた桐華の態度で、何となく感じ取る。

 単なる勘とか、そんなもんじゃない。
 確信に近いものだったと思う。
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