たとえばモラルに反したとしても
 ゴクリと唾を飲み込んだ自分が、ひどく浅ましく貪婪な女に思えて、小さく絶望する。

「お姫様? 何かご所望?」

 手を伸ばして親指で、桐華の唇を軽く撫で上げながら囁いた。

「ほら……この唇で……ちゃんと告げて……?」

 なんて甘くて色気のある声。
 蕩けるような黒い瞳。

 主導しているのは桐華のはずなのに、まるで誘導尋問にあっているよう。
 一つも思い通りになんてなっていない。
 さあ、と促されているみたい。

 けれど、そんな促しなんていらない。

 桐華の中では、疾うに求めていたから。

 三好の姿を見た瞬間から、もう求めていたから。

 だから親指の触れる唇を緩やかに開いて傲慢な言葉を告げた。


 ――あたしを……満足させなさい、と。

 一つ一つ問いかける。
 分かっているくせに、問いかける。

 ――次は?
 ――何がしたい?
 ――……何が欲しいの?

 全部、分かっているくせに。

 触れるだけのキスだって、充分に蕩けてしまいそう。
 キュウッと胸が潰れそうなほどに感じている。

 それでも軽く触れるキスをくり返してから意地悪に問いかける。
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