たとえばモラルに反したとしても
「なあなあ、渚も一緒にカラオケ行こう! あ、神森も!」

 渚と一緒にいた神森圭祐(かみもり けいすけ)がギュッと眼鏡の奥で眉根を寄せた。

 ベタベタと渚に抱きつく浩をさも見下したような目で見てから、呆れたように言った。

「どうせおまえはアミが目当てなんだろう?」

「あ~、分かったぁ? へへへ」

 脳天気に笑う浩の腕を渚がポンポンと叩く。

「浩は相変わらずだよね。アミちゃんは圭祐の彼女なのに、それでも呼んで欲しいの?」

「もっちろん!」

 まだ渚の背中に抱きついたままで浩は屈託なく笑う。

「可愛い女の子は見てるだけでシアワセ! だからアミちゃんも誘って! お願い、神森」

 呆れる圭祐と苦笑する渚。

 はあ、とわざとらしい溜息を吐きだしてから圭祐は「聞いてみる」とだけぶっきらぼうに告げた。


***


 カラオケの入っているビルの前で向こうから歩いてくる三人を見つけて浩が豪快に手を振る。

「渚たち、来た来た! あ、アミちゃんも来てくれたんだ、ウエルカム! ボンジュール!」

 ようこそ~、なんて調子よくご機嫌に迎えている。

 日永(ひなが)アミはアニメの世界から抜け出てきたような可愛らしさがある。

 お目々ぱっちり、ツヤツヤの唇、ゆるふわカールの髪、背も小さくて声も可愛い。

 男なら惹かれないヤツはいない、とまで言われていた有名人のアミ、その彼女を射止めたのは神森圭祐だった。

 圭祐とアミが付き合ったことは学校中を震撼させるほどだった。
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