たとえばモラルに反したとしても
 朝の教室は、いつものようにてんでばらばらな私語が溢れていて、耳が気持ち悪くなるほどの不協和音。

 三好はまだ来ていない。

「宮、ちょっといい?」

 弓弦に呼ばれて二人で教室を出る。
 いつにない弓弦の深刻そうな雰囲気を察知したのか、騒ぐのが専売特許のような浩も黙ったままで二人を見送っていた。

 ひとけの少ない北端の階段前まで来て、弓弦はくるりと振り返る。
 立ち止まった桐華は、いつもより少しだけ距離を置いて弓弦と向きあう。

「……宮……昨日は……」

 弓弦はどうするつもりだろう……。

 謝って、今まで通りの友達でいる?
 それとも踏み込んで、カレカノになろうとしている?

 弓弦が言葉を探すのを、じっと黙って待っていた。

 もう一度、宮、と呼びかけた時、あまり誰も使わない階段を駆け上がって来た人物が二人に声を掛けてきた。

「ねえ! 圭祐君見なかった?」

 慌てたように駆け上がってきたのは日永アミ、神森圭祐の彼女だ。
 いつのも完璧な可愛らしい雰囲気を見事なほど打ち壊す焦りの表情。

「ねえ、見なかった!?」

 あまりにも切羽詰まった様子に桐華は眉根を寄せながら聞いた。
< 62 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop