たとえばモラルに反したとしても
「ひどい……こんなこと……」

 理不尽な暴力に桐華は憤りが強すぎて息が詰まる。
 止めた息を吸い込んだ途端、何の前触れもなく涙がこぼれ落ちた。

「……き……り……」

 微かな声にハッとして桐華が視線を落とすと、圭祐がうっすらと片目を半分ほど開いていた。

「圭祐! 今、先生を呼んでもらってるから! すぐに、すぐに……」

 来るから、と言った途端に桐華は涙が止まらなくなってしまった。

 痛むのか、腕を上げようとして圭祐が「うっ」と小さく呻いて、それからゆっくりと腕を持ち上げて桐華の頬に手を添えた。

「泣く……な……。心配……ない……」

「バカ、圭祐! こんな時に人の心配してるんじゃないの。バカね!」

「きり……おまえ……だから……おまえ……だけが……心配だ……」

 切れ切れに告げた圭祐の言葉に割り込むように、弓弦たちと先生が駆け込んできた。

「圭祐くんっ!」

 アミの悲鳴に近い叫びが部屋に響く。

 バタバタと遠慮のない駆け込む足音。
 先生の慌ただしい指示の声。
 すすり泣くアミ。
 騒然とし出した資料室の中で、弓弦と浩と渚は、まるでお通夜のように口を閉ざして厳しい眼差しをしたまま俯いていた。


 桐華には――

 三人が深い怒りを押し込めているように見えた。
 
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