たとえばモラルに反したとしても
 アミは圭祐に寄り添って、折り返したシャツの袖から出ている細い腕をピタリと添わせている。


 もっと触れて、もっと近づいて。
 あからさまなアミのアピール。

 けれど圭祐は平然と座って浩と美羽のじゃれ合いにも似た応酬を聞いている。

(触れてあげればいいのに……)

 桐華は目を細める。

 肩の一つでも、腰の一つでも、抱いてあげればアミも喜ぶのに。

 だって、と桐華は思い返す。

 三好の手が肩をつかんだだけでも、背中に回されただけでも、神経の束を素手で握られたような痺れを感じる。

 触れて欲しい、抱いて欲しい、その欲求が満たされた瞬間の恍惚を桐華はもう知ってしまったから、アミが求めているもが見えてしまう。

 きっとすごく圭祐に触れて欲しいはず。

 そっと瞼を閉じてから、美羽と浩に伝えた。

「ね、あたしたち、もしかしなくてもお邪魔じゃない?」

「あ、本当だ、あたしたち気がつかない友達だ、ごめん」

「あははは、アミちゃんといるのが楽しくし忘れてましたぁ!」

 浩がおどけると渚は「もういいから、浩」と窘める。

 今日はここに来てからずっと無口だった弓弦が一番に立ち上がってカバンを肩に掛けた。
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