たとえばモラルに反したとしても
 遅れて出てきた桐華を待っていた面子は、駅前のファミレスでジュースでも飲もうよ、と歩き出した。

 桐華の隣に弓弦がスッと近寄る。
 思わず体に力が入る。

 廊下の端に呼び出されて、そこにアミが乱入してきて以来。

 あの時言いかけた言葉はまだ弓弦の中にあるままだ。

「……宮……この後……時間、ある?」

「ファミレス、行くけど」

 わざと言う。

 弓弦と二人になりたくないって、小さな抵抗なんだけど。
 弓弦には通じなかった。

「その後だよ。宮の家に、寄っていい?」

 躊躇する。

 一人きりしか住んでいないあの家は、広くて静かで嫌いだったから、あまり人を招いたことはない。
 ただ帰り道に送ってくれたついでに弓弦は何度か上がったことがある。

 その時に、キスをした。

 付き合うことは面倒だけど、キスぐらい、どうでもいいと、何度もくり返した。


 今更、躊躇するのはどうしてなのか。


 その答えを知っているけれど、わざと見ないようにしていたくて、桐華は俯いたまま小声で「分かった」と受け入れた。
 
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