妖あやし、恋は難し

近づく距離、二人の心





あれ、


何か…音がする…

扉の外から聞こえる物音で、結の意識は静かに覚醒した。

「…ッ!!イタッ!」

身じろぎをした瞬間、ズキリと後頭部に鋭い痛みが走る。

頭がグラグラする。

ぼんやりとする視界の中で自分がどこか暗い部屋の中にいることだけはわかった。

だが、音も二重に聞こえてはっきり聞こえない上、身体は重く立ち上がることもままならない。

結は、今自分がどんな状況下にいるかも、今現在何に巻き込まれていたかも把握する余裕もないまま、苦しそうに呻き身体を縮めた。


その時


バンッ!!


大きな音を立てて何かが壊れる音がした。

暗い空間に突如として光が入り込む。

同時に男の声がした。



「やっと見つけた…!おい、大丈夫か!?」


男はそういってうずくまる結に手を伸ばす。

その刹那、結は反射的に伸ばされた彼の手を払いのけた。


思い出したのだ。

自分がここに連れられてきたことを。

無理やり車に引き込まれ、手足を縛り自由を奪われたことを。

必死に抗っても敵わなかった、


そして暴力を振るわれたことを。


男の声、


光を背にしていたために、よく見えない人相、


伸ばされた手


痛みと恐怖で判断力を失っていた結にとって、更なる恐怖を与えるにはそれだけで十分だった。



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