妖あやし、恋は難し

「うぅぅぅー…ッ」

「遅くなってすまない。怖かったな、もう大丈夫だ」


スーツの襟元を掴んでしゃくりあげる結の背中をポンポン、と何度もあやすように優しく叩く。

しばらくして彼女が落ち着いてきた事を確認すると、湊は頭を撫でながら驚かせないようにゆっくりと話しかけた。


「結、何もされてないか?」

「...ッすん、頭…いたい…」

「殴られたか…、血が出てるな。医療チームを準備してる。すぐに診てもらおう」

「…はぃ」

「大丈夫、ゆっくり息をしろ、な?」


そんな二人の様子を背後から見ていた蓮。

彼はというと、この状況下に1人、非常に気まずい思いをしていた。

巽組のボスと話があるからと結の救出を任されていざ扉を開けてみれば、彼女からは怯えられ救いの手を拒絶され、挙句遅れて湊が来てからは完全にのけ者扱い。

二人だけの空気に浸っている。


(俺の存在、忘れてんじゃねーか…)


正直、結に怯えられた時、堪えた自分がいた。

それ以上に、湊に心を許す結の姿に驚いたのも本当。

(もっと…仲が悪いと思ってた。あんな危険なやつより、俺の方がまだ好かれてると…)

ようは嫉妬していたのだ。ほんのちょっとだけ。

故に蓮は、つまらなそうな顔で二人の事を直視できずにそっぽを向いていた。

すると、ようやく湊達が動き出した。


「おい、お前」

「…何だよ」

なぜか不機嫌な蓮の様子に湊は不思議に思いながらも、お構いなく話を進める。

「?…そろそろ警察が来る。とりあえず外に出るぞ」

「警察?呼んでたのか?」

「ああ。いくら動けないようにしたといっても時間さえあれば仲間を呼んで逃げられる。その前に警察に踏み込んでもらう。だが俺達が捕まっては元も子もない、だから奴らが到着する前にここを出る」

「あ、ああ…」


そう言うと、湊は「捕まっていろ」と結に声をかけ、湊にしがみつく彼女をゆっくりを片腕で抱え上げた。

開いている方の手には拳銃が握られている。

「結、今から外に出る。すこし騒がしくなるかもしれない。目をつぶって耳塞いでろ」

「はい…!」

「お前はさっき渡した銃で援護だ。ただ、さっきも言ったが人は殺すな、流石に俺でも庇いきれない」

「分かってるよ…!なめんなっ!」





それから三人は、敵の本拠地から無事に脱出した。

その数分後、警察がなだれ込むように巽組に押し寄せ、あたりはあっという間にパトカーとサイレンの音にのまれたのは言うまでもない。




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