妖あやし、恋は難し
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京都府警察本部
ようやく陽が沈み始め、夜の闇が顔を出す午後八時。
まだまだ日中の暑さが肌を這う頃、そこはいつになく大勢の刑事で溢れていた。
原因は、ちょうど半刻ほど前に起こった、京都で猛威を振るっている指定暴力団・巽組の摘発である。
発端は一本の匿名の電話だった。
『巽組で銃声がする。人が撃たれているみたいだ』
数か月前から活動が過激化していた巽組。
地元警察にも手に負えず、抑止力となっていた黒木組の弱体化により、本部に大掛かりな対策班を設置し始めていた矢先の出来事だっただけに、
とうとう発砲事件を起こしたか!!もう待ってはいられない!!
と、組織犯罪対策課総出で巽組に乗り込んだのである。
おかげで京都府警察内は今もバタバタと忙しなく警官が行きかっている。
その中を、人の波などものともせずに歩く男が一人。
同じようなスーツ姿の男たちの中に居て、一際異彩を放つ強面の男
皇湊である。
両手をズボンのポケットにつっこみ、偉そうにふんぞり返りながら、鋭い靴音を遠慮なく響かせて警察署内を闊歩する。
その異様な風体が目についたのだろう。
ちょうど巽組のヤクザ達を大勢連行している最中だったことも要因だったかもしれない。
「ちょっと君、止まりなさい」
後から突然腕を引かれた湊は、黒光りする革靴の歩みを止めた。