妖あやし、恋は難し
ゆっくりと振り向く湊。
「…あ!やっぱりお前!!」
腕をつかんだのは、ファミレスで湊を逮捕しようとした警官二人組だった。
「てめっ!!こんなところに居たのか!!!」
「やっぱり巽組の連中やったんやな!次は逃がさへんぞ!!!」
勘違いも甚だしい。
今もっとも会いたくない人間に、最も聞きたくない言葉を言われムッとした湊は、ただでさえ絵に描いたような深い深い皺が眉間に刻まれているにもかかわらず、より一層それを深めて睨み返す。
そして
「うぜぇ、うせろ」
と、一言吐き捨てた。
当然、警官たちが黙っている訳もなく。
「ッ!!言わせておけば…!貴様っ!!!」
と湊に掴み掛ろうとした、その時
「はいはい、そこまでー」
警官達と湊の間に、人が割り込んだ。
三人の視線が一斉にその人物に集まる。
その人物が誰か、それを認識した途端、警官たちは顔を青くさせ、湊は呆れた様に視線を逸らした。
「このクソ忙しい時に身内で喧嘩はいただけないなあ」
そう言ってニコニコ笑う男。
茶髪のふわふわした猫っ毛をキレイにセットした、おそらくイケメンの部類に入るであろう顔面
湊にはおよばずとも平均以上の高伸長にスラリとしたスマートな体型
その体を包む、明らかに仕事の出来る男風の上品な3ピーススーツ
「く、工藤警部…!失礼致しましたッ!!」
そう言って警官たちに敬礼されるこの男、名は工藤尋匡
東京の警視庁から今回の応援としてやってきた刑事の一人である。
そして
「いやあ、君たちに落ち度はないよ。俺の連れが粗相をしたみたいだね、ほら、謝れって湊」
「え、…!?そ、そちらは…工藤警部のお連れの方なんですか…?」
「ああ。俺の部下」
「ええぇえええっ!!??」
そう。
湊がわざわざ刑事の群がる厳戒態勢真っ只中の警察署に赴いたのは、
この工藤尋匡に会うためだった。