妖あやし、恋は難し
「どうしたんだ湊、らしくないぞ」
「……ああ」
自分のミスが相当堪えたのか、力なさげに頭を抱える最強ガードマン。
その肩に、工藤は励ますように力強く手を置く。
「俺が言うのもなんだけどな、元気出せ」
「…励ますな、余計凹む」
「そうか?まぁ、最近はずっとお前の勝ちが続いていたんだ。今回は俺のほうが優秀だっただけだって、な?」
「……お前、本当は励ます気ないだろう」
呆れつつも、気を許した仲でのやり取りで幾分か落ち着いた湊は部屋をあとにする。
その黒い背に、工藤は一言。
「これは別に励ましでも擁護でもない、ただの独り言だが、あの映像が証拠として扱われることは恐らくない」
「…」
「あれは元々秘密裏に入手したものでな、証拠能力は低い。相当優秀な捜査官がいれば話は別だがこの部署にそんな刑事はいないようだし」
「……いるんじゃないのか、目の前に、1人だけ」
こちらを向いてそう言う湊を、工藤は得意げな笑みを浮かべて笑い飛ばした。
「生憎、その唯一の男は、今日の夜には東京だ!さぞかし残念だろうなぁ、大きな獲物を捕らえるチャンスだったろうに、だが上司からの命令なら仕方ない!まったくもって無念この上ない!」
だからな、
工藤はそう言うと、柔らかく目を細める。
「お前は安心して、あの女の子についててやれ」
「…!」
「一人で大丈夫だと、強がる子に限って無理してるんだよ。男だって辛い時には誰かに縋りたくなる、だからもし彼女が大丈夫だと言っているのなら、そんな時こそ縋れる存在になってやれ」
全てを見透かしたような言葉。
自分はいいからと湊を送り出した結を、そばに居てやりたいが自分がいたところで怖がらせるだけだと不安がる湊を。
(…こういう人の感情の機微を読み取る力は敵わないな)
湊は諦めたように、目を閉じる。
これは親友からの助言。
繕った上面のものではなく、優しい笑顔で、湊のただ一人の親友はそう言った。