妖あやし、恋は難し
彼ら四人に結を加えた五人が、この部屋の中にいた。
いや
(…そういえば、あの人も…)
部屋の隅で彼ら五人と距離を置き、まるで監視するかのごとく睨みを効かせる男。
ガードマンの皇湊もまた、彼らと共に残っていた。
先に部屋を出ていった団体についていけばよかったのに。
睨むぐらい嫌いなら出ていけばいいではないか。
(はあ、やりにくい…)
そう、心の中でひっそりため息をつきながら、結は前を向く。
出来ることは少ないといえど、これは依頼。
誰に何を言われようと最善を尽くさなければ。
「…すいません」
声を上げる。思っていたよりもか細く、小さな声になってしまったがこの場にいた彼らにはきちんと聞こえたようで、皆の目がいっせいに結へと向いた。
「…私も少し、このお屋敷を見て回りたいと思うのですが」
そう言うと、誰もが驚いたように目を僅かに大きく見開いた。
「そなたは確か、【陰陽師】の一条と言ったな」
僧侶の弦が問う。
「はい」
「まだ幼いなりをしているようだが、本当に一人前というか」
「…僧侶様の目には幼く見えましょうが、今年で十八でございます。物心ついた頃からこの道に入り、父を師事、跡目を継いで【陰陽師】となりました。少なくとも、ここの主に依頼をされる程度には仕事もこなしておりますゆえ、一人前には程遠くとも腕は立つと自負しております」
「…なるほど、これは失礼した。なにぶん、こういった稼業では若い冷やかし連中が多いのでな」
新人とでも思ったのか、まるで牽制するような物言いに、結はまたしても心の内でため息を漏らす。
けして表情には出さない。
こういったことには慣れているのだ。
霊妖を信じぬ者からは軽蔑の目で見られ、同業者からは新人いびりを受ける。
(これだから、ヒトは苦手。妖や霊より、ずっと…ずっと厄介だ…)
だが結は知っている、
多少の霊力はあれど、彼らの中に『ホンモノ』はいない。
彼らの目には、霊も妖も、見えはしない。
それだけは確かな事実。
なぜなら
彼女の後ろには、【妖】が
【白い鬼】が憑いている
そのことに、誰一人気づいていないのだから────