妖あやし、恋は難し








────とは言われたものの、どうしたものか


京都府警を出て、黒田組へと戻った湊は小さくため息をついた。


今、一条結はここ黒木邸の一室にいる。


ホテルで1人にするよりも、いくらかマシかと思ってのことだった。


しかし


(俺が行ったところで安心できるとは思えないし、むしろ恐がらせるだけなんだが…)


ズボンに片手を突っ込んだまま、空いた手で頭をがしがしとかきながら、もう1度溜めた息を吐き出して黒木邸の門をくぐった。


すると、


「「「おかえりなさいやせ!!!!」」」


黒服の大男たちの大合唱とともに迎えられるではないが。


まあ、考えてみれば当然。


なんせ、黒木組が手を焼いていた敵対組織を一人で潰していた人物なのである。


彼らからすれば英雄だ。



「やめろ、鬱陶しい」


と、一応そんな言葉を吐いてはみるが、一向に聞く耳を持たないのがこいつらである。


「お勤めご苦労様です!」

「お荷物お持ちいたしやしょーか!」

「お煙草は」

「チャカの手入れを」



「うっせえ」



群れる男達を一蹴し、結の部屋へと歩みを進める。


すると、群れから外れ、腕を組み壁に寄りかかるようにして立つ男が一人、目に付いた。


蓮だ。



「よお、旦那」


「…」


「急いでるところ悪いが、親父が呼んでる」


クイッと顎で部屋を指す。


全く、思い通りにいかないものだと、湊は三度目の溜息をつくのだった。



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