妖あやし、恋は難し
ーー
用がないならもう行くぞ
そう言って湊が立ち去る。
「…あいつ、親父とどんな関係なんだよ」
その後ろ姿をじっと見つめながら、怪訝な顔を浮かべた蓮が独り言のようにそう呟いた。
黒木組とはなんら関係のない赤の他人かと思っていたが、先のやりとりを聞く限り、そうでないことなど明らかである。
湊の後に続くようにその場に現れた登坂もまた、湊の背を見つめる。
「そういや登坂さん、あいつらが組にやってきた時、何もチェックしてねぇのに通せって言ってましたよね。何か知ってるんすか。登坂さんも元から面識が?」
「……ある、と言っても直接話したのは今回が初でね。三年前にちと世話になったと親父から聞いている程度だ。あのお人に関することについて知っている事はお前達とさほど変わらねえだろう」
登坂は目を細める。
記憶を辿るように、かつての湊の姿を重ねる。
あの頃と変わらない、黒濡れのスーツの背に。
しとどに降る雨の中、夜の道に消えていく男の姿を。
『…一体親父とどんな関係で?』
『気になるか?登坂』
『……気にならない方がおかしいでしょう。あれ程の腕を持つ男が、何故うちの組をなんの見返りもなく助けてくれるのか、俺には理解できやせん』
当時から組長を支えるその手腕は健在であった登坂。
しかし、まだ若く、今よりもやや荒削りだった彼に、剛蔵は笑いながら一言答えた。
『手負いのオオカミを、拾って世話しただけのこと』
ずいぶん昔のことだがね
身体を打つ雨が一層寒さを強くする、そんな冬の夜だった。