妖あやし、恋は難し




(どういう状況だ、これは…)



豪勢な黒木邸の中庭に面した縁側

そこに二人は腰かけていた。


『もう少し、一緒に…いてくれませんか?』


そう言って、はじめは部屋の中へと案内しようとした結を断固拒否した湊は、気分転換を兼ねて縁側へと連れだしたのだ。




おとな2、3人分はあるような不自然な隙間を開けて隣り合う二人。


何を話すでもなく、ただただ無言が続く。


(何をしたらいいんだ…まったく)


人付き合いなどしたことなど当然なく、相手の感情や思いを慮らことなど皆無な湊。

おまけに相手は結だ。


現在の状況に耐え切れず、頭を抱え、貧乏ゆすりでも始めようかとしている始末である。


ちらり、と横目に隣に座る結を見る。






結は夜空を見上げていた。



雲一つない闇夜、満天の星、一際輝く白い月


その光を浴び、より白く、淡く照らし出されたその横顔は、持ち前の端正な輪郭や日本人離れした翡翠の瞳も相まって、1つの完成された絵画のように、得も言われぬ輝きを纏っていた。




ああ、これを


(『美しい』というんだろう…)




審美眼など持ち合わせてない湊だが、人生で初めて人を美しいと感じた。


まるで時が止まったかのように、音すらも聞こえぬ空間にただ二人いる。


そんな感覚に陥る。


その時間は長く、けれどひどく穏やかに感じられた。








目を離せずにいると、結の唇がわずかに動いた。


「…綺麗だね、『ハク』」


なにやら聞き覚えのある名前が出てきたことで、湊の緩んでいた眉間がピクリと動く。


その後に続くように、結本人もハッと口元を押さえた。



「ご、ごめんなさいっ!つ、つい…!」


慌てる結に、湊は一層眉間のシワを深くし、目を細める。


「何故謝る必要がある。以前からそうだ、『ハク』というやつが関係してるからか?一体誰なんだ」

「そ、それは…っ、」



湊の言葉に、結は言葉を詰まらせ、俯いた。



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