妖あやし、恋は難し
(どういう状況だ、これは…)
豪勢な黒木邸の中庭に面した縁側
そこに二人は腰かけていた。
『もう少し、一緒に…いてくれませんか?』
そう言って、はじめは部屋の中へと案内しようとした結を断固拒否した湊は、気分転換を兼ねて縁側へと連れだしたのだ。
おとな2、3人分はあるような不自然な隙間を開けて隣り合う二人。
何を話すでもなく、ただただ無言が続く。
(何をしたらいいんだ…まったく)
人付き合いなどしたことなど当然なく、相手の感情や思いを慮らことなど皆無な湊。
おまけに相手は結だ。
現在の状況に耐え切れず、頭を抱え、貧乏ゆすりでも始めようかとしている始末である。
ちらり、と横目に隣に座る結を見る。
結は夜空を見上げていた。
雲一つない闇夜、満天の星、一際輝く白い月
その光を浴び、より白く、淡く照らし出されたその横顔は、持ち前の端正な輪郭や日本人離れした翡翠の瞳も相まって、1つの完成された絵画のように、得も言われぬ輝きを纏っていた。
ああ、これを
(『美しい』というんだろう…)
審美眼など持ち合わせてない湊だが、人生で初めて人を美しいと感じた。
まるで時が止まったかのように、音すらも聞こえぬ空間にただ二人いる。
そんな感覚に陥る。
その時間は長く、けれどひどく穏やかに感じられた。
◇
目を離せずにいると、結の唇がわずかに動いた。
「…綺麗だね、『ハク』」
なにやら聞き覚えのある名前が出てきたことで、湊の緩んでいた眉間がピクリと動く。
その後に続くように、結本人もハッと口元を押さえた。
「ご、ごめんなさいっ!つ、つい…!」
慌てる結に、湊は一層眉間のシワを深くし、目を細める。
「何故謝る必要がある。以前からそうだ、『ハク』というやつが関係してるからか?一体誰なんだ」
「そ、それは…っ、」
湊の言葉に、結は言葉を詰まらせ、俯いた。