妖あやし、恋は難し



「…はあ、息苦しかったぁ」


部屋を出た結は思わず、胸につかえた思いをため息とともに口に出してそう言った。

同業者から向けられる冷めた視線を逃れ出て、結は何とか部屋から抜け出してきたのだ。

これで睨み付けられる心配もない。

なんでこんな気苦労ばかりなのか。

(もう忘れよう…あの人たちも、怖い人も…)

ふるふると頭を振り、頬をびたんと両手で叩いて気持ちを切り替える。

屋敷はやはり広かった。

外から見るより複雑で、何部屋もあり、その一つ一つを見て回るには時間が明らかに足りない。

(とりあえず歩いて回ってみようかな)

手を後ろで組み、散歩感覚で歩き始める。

気になった部屋は覗き、そうじゃないところは何もしない。

さながら近所のお宅訪問の気分だ。

そうして歩くうちに時間は経ち、外がすっかり暗くなった頃。
結はある部屋に行きつく。

ドア、ドア、ドア…と続くなか、不自然にそこに現れたふすま。

中は想像の通り。


(……和室だ)


この屋敷の中で初めての和室。

そしてその中には、一人の男が布団の中に横たわっていた。

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