妖あやし、恋は難し
老人だ。
齢八十は超えているだろう。
よぼよぼで、力なさげに布団をかぶり、眠っている。
なぜだか結はその場から動けずにいた。
他の部屋では何とも思わなかったのに、この部屋に来たとたん何かが引っ掛かったのだ。
いいや、部屋と言うより、この老人が。
(…なんだろう…これ…)
そう疑問を抱いていると、
眠る老人のまぶたがかすかに震え、ゆっくりと開き、虚ろな瞳が結を捕えた。
はっ、と息を呑む。
老人の口が動く。
音のないその声を結が読み取ろうとした、その時
「おい」
「~~~~ッ!!!?」
突然背後から声をかけられ、ビクッ!!と飛び上がりそうな勢いで驚いた。
しかもこの声…!
恐る恐る、振り返るとそこに居たのはやはり、あの男。
皇湊だった。
(こ、怖い人だああーー!!!)
結はまだ、名前を覚えていない。