妖あやし、恋は難し


金色の鎖を全力で引きながら、彼女の翡翠色の目がハッと見開かれる。

「執事さんッ!危なッ、そこ、どいてっ!!!」

洸太郎のベッドのそばで呆然としていた執事の峯は、何のことか分からず反応が遅れた。

次の瞬間

バシィッ!!と、何かが横からぶつかり、峯の身体は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

「ゔうっ…!!」

「峯さんッ」

「峯ッ!!ああ~なんてことだあああ~!!やっぱり私は死ぬんだああ~~!」

洸太郎に至っては相当な精神的ショックになったらしい。

そのまま、がくっと気絶してしまった。

窓が内側から弾けるように割れる。
花瓶も鏡も、高級そうなシャンデリアもことごとく割れる。
椅子は吹っ飛び、ガタガタとあらゆるものが揺れ動く。

部屋の中はもうめちゃくちゃだった。

「クソッ!おいっ!!何が起こってる!!」

湊は結に向かって叫んだ。

しかし結は答えられる余裕はない。


結の目に映っているもの

それは悪霊だった。

部屋全体を覆いつくすほどの黒い靄を放つそれは、元は人間。

顔は歪み、目だと思われる場所からは真っ赤な血が流れている。

人の声とは思えない苦し気な呻き声をあげるそれが今回の脅迫事件の犯人。

結の力で現世に引きずり出したまでは良かったが、捕縛用の金鎖を力任せに引きちぎりこの部屋までやって来た。

ここの主に相当な恨みがあるのだろう。

血の涙を流すほどに。

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