妖あやし、恋は難し
「おいっ!!」
湊の大声で、結は我に返る。
「何が起きてる?!さっさと答えろ!!」
怖い顔で迫ってくる。
結はためらっていた。
この人は、霊とか悪霊とか、そういうことをまったく信じてない。
むしろそう言った類の話を酷く嫌い軽蔑している。
そんな人に今起こっていることを言ったとしても信じてくれるはずない。
(っ…でも、このままじゃ、力負けしちゃう…!!)
今、結が握っている金の鎖を離せば、たちまち悪霊が洸太郎を呪い殺すだろう。
それだけは何とか阻止しないと。
(強制除霊もできるけど…ッ!手を離せないから呪符も使えないし、印も結べない…!!もう、この恐い人の手を借りるしかっ…怖いけどっ!!)
「くくくく、くっくさッ…!」
「はっきり言え!!!!!」
びくっ!!
(怒鳴らないでよおーーー!)
相変わらず短気で怒りっぽい湊に怒鳴られ、再び縮こまる結。
それに耐えかねた湊は、結が引っ張っている金色の鎖に手を伸ばした。
「チッ、これを引きゃあいいんだろ…!!」
しかし、それを掴もうとした湊の手はするりと、金の鎖をすり抜けた。
何度同じように掴もうとしてもすり抜ける。
「ああ゛?何だこの鎖!?」
「そっそれはっ、普通の人の手じゃ、さ、触れないんですッ!!
腰元のホルダーから白い紙を取って拳の甲に貼ってください!」
結の言葉を聞き、とんでもなく怪訝な表情をしていた湊だったが、しぶしぶ言う通りに長方形の白い紙を自分の手の甲に貼りつけた。
次の瞬間その紙に突然文字のようなものが浮かび上がる。
中央には目の様な紋様が。
湊は驚くが、「そ、それでこの鎖をっ!!」という結の言葉通り彼は金の鎖に手を伸ばす。
すると先程まですり抜けていたのが嘘のように、がっちりと握れたではないか。
「おいっ!これ引けばいいんだな!!」
「はっはいっ!!へ、部屋の外へ!!」
せーのっ
その合図で二人は、悪霊を部屋の外に出すべく金の鎖を引っ張り始めた。