妖あやし、恋は難し
さすが男、さすがガードマンと言うところか。
湊の力は強かった。
男だし、普段からその体は鍛え上げられている。
結のそれとは比べ物にならないほどの力の強さで鎖が引かれ、その先に繋がれた悪霊が寝室の外へと引っ張られる。
だが、悪霊の方もそうやすやすとされるがままになるわけがない。
「っ何だ!何が引っ張ってんだコレっ!!」
(芝居かと思ったが…そんなんじゃねえな…!!)
湊もうすうす、ここには何かがいる、とそんな気がし始めていた。にわかに信じがたいが。
彼が力を貸してくれたので多少余裕ができてきた結は語り始める。
「…っこの、鎖の先にいるのは、あ、悪霊です…!」
「はあッ!?」
「たたたぶん、この屋敷の主人、洸太郎様の亡きお父様が悪霊の正体だとっ、思います…」
和室で見たあの老人。
あれがこの悪霊の正体。
「そっそそそれは、本当か!!?女!!」
いつの間にか洸太郎が気絶から目を覚まして、部屋の隅に縮こまりそう叫んでいた。
「本当に!そこにいるのは、父上の霊なのかっ!!!?」
「あ、悪霊です…!本来成仏するはずの魂が、現世に残した恨みや怨念で歪み、形を成したものです…!ただの霊ではありま、せん!」
「ど、どうにか、鎮めることは出来ぬのか!?」
「できないことは、ないですけど…!それには、手を離さないと…!!」
そうだ、手が使えない限りここまで成長した悪霊を除霊することは出来ない。
すると
「おい」
「…ッ!!は、はいっ!」
「いちいちビクビクするなお前!!」
「!! ご、ごめんなっさ…!!」
湊が話しかけてきた。
「この鎖、持ってればいいんだろ?」
「え、…?」
「この際、霊だの悪霊だのはどうでもいい。いてもいなくても俺には関係ねえ。俺は主人が守れりゃそれでいいんだ!俺がこの鎖を引いておく。お前はお前がやれることをやれ!!!!それが仕事だろ、しっかりしろ!!」
「ガードマンさん…」
湊のその言葉に、結は覚悟を決めて頷く。
そして、金の鎖から手を放した。