妖あやし、恋は難し
(何だ、殺したって……何で泣くんだよ…)
困惑顔の湊が、結に一歩近づこうとしたその時。
ドカッ!!!!
「うわっ!!」
背中に何かがぶつかり、湊は前のめりにすっころげた。
いや、何かがぶつかったというより…
(い、今、何かに蹴り飛ばされたような…)
額に青筋を浮かばせ、背後を覗き見るが何もいない。
一方で結の方はというと。
湊がこけるのと同時に我に返り、ばっとそちらを振り向く。
「あっ【ハク】!こっちは終わったわ。そっちは?……ええっ!?下の階が!!?大変!!」
と独り言を言って騒いでいた。
奇妙な光景に、湊も洸太郎も目を丸くしてポカンとしている。
「みみ、皆さん!た、大変ですッ!このすぐ下で火事が!!早く降りないと!!」
「はあッ!?それをさっさと言え!!!」
それから結は洸太郎に肩を貸し、湊は気絶した峯を担いで急いで部屋を出た。
火の手はあっと言う間に回る。
四人は必死に煙の充満する廊下を駆け降り、途中で庄野や嘉瀬など他の護衛メンバーたちと合流し何とか生き延びた。
寝室は離れに建てられていたため、火の手が本館へと回ることもなく、時計の針は真上を向く。
◆
こうして、不可思議で慌ただしい一日は真っ赤な炎と共に終わりを告げ、
結の気苦労の耐えない依頼は、無事完了したのだった。