妖あやし、恋は難し

後日談




柳邸主人、洸太郎の父が悪霊になってしまった理由は

のちに洸太郎本人の口から語られた。


彼は昔から厳格な人だったという。

一代で今の地位を築き上げた父。

他人に厳しく、ことさら自分の子供には厳しかった。

周りの人間を信用せずひたすら人を避け、いつだって彼は一人で生きていた。

それは家族間においても変わらない。

彼は和室にこもり息子も娘も、妻さえも寄せ付けなかった。

年を取り、死の間際になっても。

ある日彼はひっそりと、たった一人でこの世を去った。

妻も子供も誰も、誰一人彼を看取らなかった。
それが望みだと思ったのだ。

いつだって一人で生きてきた彼の最後の望みだと。

だが彼は、本当は寂しかった。

それまでの人生を間違っていたとは思わない。

ただ、死ぬ間際になって自分の手を取ってくれる人すらいないのかと


『ああ、さびしい…』

『一人ぼっちは、さびしい…』

『さびしい…』


『さび…しぃ……』


それが彼の最後に思った事。

その思いが彼を、彼の魂を、現世に引き留めていたのだった。

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