妖あやし、恋は難し
この時はまだ、悪霊ではない。
ただ、現世に未練が残り彷徨う事になったただの霊、いわゆる幽霊だ。
そこから悪霊へと変化した経緯は色々と考えられる。
既に存在していた悪霊と深く絡み合ったことで悪霊と化した場合。
人間の術師によって悪霊へと変化させられた場合。
だが今回はそのどちらも違うだろう。
原因は洸太郎の結婚。
それが、脅迫状の届いた頃に丁度重なる出来事だからだ。
洸太郎をはじめ柳家の兄妹仲は至極良好だった。
父親があんな感じだったからその反動からかもしれない。
その日、兄妹親戚、花嫁、洸太郎、皆が集まってパーティーをした。
それは賑やかに、長男である洸太郎の祝言を祝って。
霊となった父も、もちろんそれを見ていた。
寂しさ故に霊となってしまった彼にとって、その光景は確かな憧れそのもので。
『なぜだ…』
『なぜ、お前たちは笑っている』
『なぜ、お前は…私が手に入れられなかったものを持っている』
『なぜ…』
『ナゼ…』
憧れは、嫉妬に。
そして
嫉妬は、いつしか恨みに。
『……ユルサナイ』
その時彼の心の中にほんの僅かな悪意が芽吹いた。
彼の中に生まれた悪意の芽が花開くのにそう時間はかからなかっただろう。