妖あやし、恋は難し

思わず、結は固まる。

なんでこの人が、ここにいるのか。
そして何故、この席に座るのか。

そんな疑問がぐるぐる頭の中をまわり、訳が分からなくなった結は何を考えたのか、バッ!!と立ち上がってその場を逃げ出そうとした。

しかし流石の反射神経。

湊は立ち去ろうとした結の腕をガシッと握りしめ、逃がすまいと引き留めた。


「おい!!!待て!!何故逃げる!!?」

「あああなたこそっ!なななななん何でここにいるんですか!?」

「はああ!?ちゃんと手紙送ったろうが!!!」

「えええっ!?あああ、あ、あれ、あなたが!?」

名前書いたろ!!?分かって来たんじゃねえのか!!」

「あああ、あなたの名前なんてっおお、お、覚えてるわけないでしょっ!!!」



それからしばらくギャーギャーと二人の言い合いは続き、ようやくお互いの誤解が解けて席につく頃には、まわりの客は恐がって逃げてしまっていた。

いい営業妨害である。

「はあ、はあっ…!」

「…ったく、騒ぎやがって!!」

席に着いてから二人は息を整える。

そうしていると、先程のウエイトレスが足早にやってきた。


「ちょっと!」

相当ご立腹のようだ。綺麗な顔に不釣り合いなしわを眉間に浮かべている。
当然だろう、お店の中でこんな騒ぎをおこしたのだ。

「す、すみませんでした!すぐに出ていきますので…!」

急いで謝ろうと立ち上がった結に、そのウエイトレスはにっこり笑った。
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