妖あやし、恋は難し
「……ぃ」
「……」
「…おい!!」
「っはいッッ!!!」
「ボーッとすんな!…降りろ、着いた」
考え事をしている間に、目的地についていたらしい。
湊に促され結は車から降りる。
着いた場所は、結の目で見る限り、病院のようだった。
大きくて、古い、病院。
結が黙って目の前の建物を見ていると、いつの間にか湊が隣に立って、タバコを口にくわえていて。
(あ、…タバコ吸うんだ…)
ふうーっと煙を吐き、湊は静かに語り始めた。
「…俺は、お前らのような【霊能力者】と名乗る連中が、何より嫌いだ。反吐が出る」
「……知ってます」
「霊も妖も、いるわけねえだろふざけんなって思ってる」
「……はあ。」
「あんたらの言葉も、行動もまったく、一片も信じちゃいない」
いったい何を言いたいんだろう。
軒並み続く批判的な言葉に心折れそうになりながらも、湊が言いたい事が分からず、無言のまま湊の次の言葉を待った。
「俺は何も信じてない、だが…」
(…?)
結は顔を上げて見つめる。
随分と高い所で煙を吐いている、ちょっぴりタバコ臭いガードマンを。
「…信じてはいないが、お前は他の奴とは違うと思っている」
「…へ?」
意外な言葉に結は眼を丸くする。
「俺は現実主義だ、自分の目で見て肌で触れて、経験して、そう言うもんを信じてる。だから見えもしねえ霊も妖も、それを扱う霊能者も信じる価値は一片もない。だが、お前とはあの一件で、一緒に居た」
あの日、あの場所で、確かに結は、護ると誓ったものの為に必死だった。
あの瞬間、目に見えぬものが確かにいた。
あの時の行動を、あの時の涙を、演技だったとは思わない。