妖あやし、恋は難し

「部屋の中に机、見えるか」


湊が視線で示すその場所には、確かに机があった。

そしてその上にずらりと並べられた水晶やら花瓶やら数珠やお守りなどの数々。
それらは全て、結が見慣れたものばかり。
占い師を始めとした霊能者たちが使う道具だらけだった。


「…姉は、昔から少し変わっててな、お前らみたいに幽霊やモノノケは居ると信じていた、迷信深い人だった」


幼い頃に母が亡くなり、その母になついていた従妹の蘭は泣いてばかりいた。
そんなとき、蘭に遥はよく言ってきかせた。


『お母様が見てるから泣いたらだめよ』と。

お母様だけじゃない。

たくさんの幽霊や、オバケや、妖精や神様も見ているの。

目に見えなくても、そこに居るの。

だから泣いたら駄目。

『怖い顔で怒られちゃうんだから』


昔はその程度の可愛らしいものだった。

だから当時の湊も、口で言ってるだけ、本当に居ると信じてるわけじゃない。

そう思っていた。


それがこじれ始めたのはちょうど五年前、ある女と出会ってからである。

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