妖あやし、恋は難し
『湊、こちら、東京で御高名な占い師の【ホオズキ】様よ』
五年前
それまで、ほとんどの時を海外で暮らしてきた湊が、久方ぶりに日本に帰って来た時。
真っ先に顔を出しに行った姉の元にその女は居た。
占い師【ホオズキ】
杜若(かきつばた)の布を身体に纏い、耳たぶが千切れるんじゃないかと思うくらい大きなイヤリングをぶら下げた女。
真っ赤な毒々しい紅に縁どられた口の端をくいと上げて笑う女。
その不気味な笑みは湊には不愉快極まりないものにしか見えなかった。
しかし遥はその女を心底信頼していたのだ。
どんな手を使ったかわからない。
ただ、他の誰の言葉も耳に入らないほど、遙は【ホオズキ】にのめり込んでしまっていた。
女が、この水晶玉を持てば未来は安泰だと言えば、遥はそれを女から買った。
女が、あなたに悪霊がついていると言えば、遥は女の持つ数珠を買った。
女が、これであなたの病気が治ると言えば、遥は勧められるものを何でも買った。
ようは女にとって、遥は良い金づるとなっていたわけである。
湊は何度も遥を説得しようと試みた。
従姉妹で兄妹同然の蘭も。
あれは嘘だ、いかさまだ、姉さんは騙されているんだと。
だが、その結果がこれ。
遥は、時間を重ねるにつれ女を信じてますますのめり込み、元々弱かった体はいつからか更に悪化、寝たきりとなり、今では死にかけているという始末。