妖あやし、恋は難し
◇
次の日
丁度お昼少し前、結と湊は再びホテルのフロントで顔を合わせた。
何故だか気まずい空気が流れる。
「昨日は、眠れたか」
「…はい、お陰様で。良い部屋をありがとうございました」
湊がいつものように怒鳴らないので、結はどもらず昨日から練習していたお礼の言葉を言うことができた。
それが少しだけ嬉しくて、結はほんのりとほっぺを赤く染める。
一方、彼女の手に昨日までなかった松葉色の風呂敷包みがあるのが見え、湊は内心ほっと息をつく。
(誰か来たんだな、親か?まあ何にしろ荷物を持ってきてくれるような人はいるわけだ)
依頼の内容を一切言わずに連れ回した。
泊まりになるとは思っていなかっただろう。
おまけに一緒にいる男は、十八の子供に嫌いだクソだと面と向かって何度も言うような人間。
何かあっても湊に相談はできない。
思い返してみれば、ろくな事をしていないと気がつく。
だが、生まれ持っての性格など今更変えられるわけもない。
(どうせ、今回のことが終わればもう会う事は無い…どれだけ嫌われようが知ったことか)
吹っ切るように、湊は一度、固く目を閉じる。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って車へと向かった。