妖あやし、恋は難し
遥は眠っている。二人の喧嘩も気づかずに深く深く。
そんな姉の隣で、湊に掴み掛られながら、女はまたも笑った。
今度は憐れむ様に湊の肩に触れながら。
「湊さん…遥さんがこうで、参ってらっしゃるのね。負のオーラが出てらっしゃるわ。休まれた方がよくってよ」
「~~ッッ!!!!ふざけんなっ!!!!」
怒りボルテージが目に見えてどんどん上がっていく。
どうやら彼女は口で煽るのがうまいらしい。
湊の理性がどんどん削られていく。
そして、彼女が言ったのだ。
ぼそりと、吐き捨てるように。
「まったく…私に責任を擦り付けないでくださります?…信じた彼女の責任でしょう」
逆恨みも甚だしい。
彼女が言いかけたその瞬間、必死で抑えていた湊の理性のタガが外れた。
固く握りしめた拳を湊が振り上げる。
それまで余裕顔で笑っていた女も、さすがに病院で暴力を振るわれるとは思っていなかったのか、一瞬で笑顔が消え去りさぁっと血の気が引いていく。
そして、彼女の眼前に拳が迫った時。
湊と女の間に立ちはだかるように、突然人が入った。
しかし、もう拳は止まらない。
湊は、間に入ったその人物の顔を思いっきり殴りとばしてしまっていた。
我に返った湊の目に入ったのは、床に倒れる結の姿だった。