妖あやし、恋は難し




先程までと打って変わって、しんと静まり返る病室。

規則的な機械音だけが響く。

その中で湊は、ただただ呆然としていた。


「…随分と大人しくなりましたわね」


椅子に座った女が懲りずに声をかけてきたが、湊はそれに応える気にすらならなかった。

壁に寄りかかりながら、自身の拳を見つめる。

人を殴ったことなど数え切れないほどある。

だが、結を殴ったと分かった瞬間、頭が真っ白になった。

拳がズキズキと痛かった。

今までそんな事、一度だってなかったのに。


「――ありがとうございました」


しばらくすると、そんな声が聞こえてきて、結が病室に戻ってきた。

中に入って扉を閉める。

頬には大きなシップが張られ、口元には絆創膏が張られていた。
だが、それらでは隠しきれない傷が端から顔を覗かせる。

結の痛々しい姿に、湊が謝ろうと動き出す


が、


結は湊を完全に無視し、女の前へつかつかと近づいていった。

湊は完全に肩透かし。

女は目の前にやって来た結を見て、目を細めてにっこり微笑んだ。


「先程は庇ってくれてありがとう。湊さんがまさか女性に手を出す野蛮な方だなんて思わなくって。お礼に貴女の事を占ってあげましょう」


さあ、手をお出しになって。

女の言葉に湊は、またこいつは何を!!と怒鳴ろうとした瞬間、

パァン!!

と、乾いた音が部屋に響いた。


< 49 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop