妖あやし、恋は難し
◇
先程までと打って変わって、しんと静まり返る病室。
規則的な機械音だけが響く。
その中で湊は、ただただ呆然としていた。
「…随分と大人しくなりましたわね」
椅子に座った女が懲りずに声をかけてきたが、湊はそれに応える気にすらならなかった。
壁に寄りかかりながら、自身の拳を見つめる。
人を殴ったことなど数え切れないほどある。
だが、結を殴ったと分かった瞬間、頭が真っ白になった。
拳がズキズキと痛かった。
今までそんな事、一度だってなかったのに。
「――ありがとうございました」
しばらくすると、そんな声が聞こえてきて、結が病室に戻ってきた。
中に入って扉を閉める。
頬には大きなシップが張られ、口元には絆創膏が張られていた。
だが、それらでは隠しきれない傷が端から顔を覗かせる。
結の痛々しい姿に、湊が謝ろうと動き出す
が、
結は湊を完全に無視し、女の前へつかつかと近づいていった。
湊は完全に肩透かし。
女は目の前にやって来た結を見て、目を細めてにっこり微笑んだ。
「先程は庇ってくれてありがとう。湊さんがまさか女性に手を出す野蛮な方だなんて思わなくって。お礼に貴女の事を占ってあげましょう」
さあ、手をお出しになって。
女の言葉に湊は、またこいつは何を!!と怒鳴ろうとした瞬間、
パァン!!
と、乾いた音が部屋に響いた。