妖あやし、恋は難し
「...!?」
思わず結は固まった、自らを罵倒するその声を聞いて。
ばれないように恐る恐る、こっそり後ろを覗き見る。
そこには執事と、こそこそ話し込むやけに怖い顔の男がいた。
「あんなガキが?ふざけてねえでちゃんと…」
「ですから、彼女は由緒正しき陰陽師だと何度も言ってるじゃありませんか」
「おいおい冗談だろ…ただでさえ胡散臭い連中ばかりで参ってんのに、最後の最後でガキの霊能力者?」
「陰陽師でございます」
「別にそこはどうでもいい。…ックソ、頭いてえ」
そこで男の鋭い目が結の方を向く。
睨むようにじろりと。
反射的に結は姿勢を戻す。
その後もびしばしと刺さる彼の視線。
もう、なんだか泣きそうだった。
(うわあ…ついてすぐにここまで言われるとは思ってなかった…しかもあの蔑むような眼、やだなあ、慣れてるって言ってもちょっとキツイ、初対面なのに……)
涙目になりながら肩身狭く、椅子に縮こまって下を向く。
依頼された身としても、こういうふうに批判的な目にさらされることは少なくない。
引っ込み思案で、人との付き合いに慣れていない結にとってこういう状況はあまり得意なものではなかった。
だから我慢して乗り切るしかない。
これは仕事なのだから。
(そ、それにしても、どうしてこんなに人を呼んでるんだろ…依頼の詳細も聞いてないし、何をするつもりなのかしら…)
そうやって意識を逸らそうとするが、記憶の端にちらつくさっきの男の顔。
びくびくしながらもう一度振り返る。
チラリ
!!!?
(まだ見てるっ!?)
男はまだこちらを睨み付けていた。
やっぱり怖い、鬼みたい。
目は鋭く、眉間にはもう取れないんじゃないかと思うぐらい深い溝が何本も。
艶めくオールバックと黒スーツがより一層怖さを助長している。
もう、そのなりは完全に
(どこのヤクザですかーー!!?)
結は思わずそう心の中で叫んだ。
男は睨む。
まるで遺恨があるかのように恨みがましく、怒りの炎を胸の内に秘めて。
(もう、やだ…)と涙ながらに思うと同時に、はやくもこの依頼を受けたことを後悔し始めていたのだった。