妖あやし、恋は難し

時が止まったかのように、空気が張り詰める。


結が、

女の頬を平手打ちしたのだ。

女も湊も呆然。

そんな彼女に、結は声を荒げることなく、けれど静かな怒りを秘めて話し始める。


「勘違いしないでください。私はあなたの為に庇ったんじゃない。彼の為に庇ったんです」

「!!」

「あなたは最低な人間です。言いたいことがたくさんあります。耳の穴かっぽじってよく聞きなさい!!」


珍しく眉間に皺を寄せ、普段の結とは不釣り合いな荒い口調で。

湊はぎょっとしていたが、本人は全く気にすることなく続けて責める。


「まず、あなたはニセモノの占い師でしょう」

「な、何を失礼なっ!わたくしは本物ですよ!!顔を叩くだけにとどまらず、侮辱までするなんて!子供だからと言って許しませんわ!」

「だったらどうするんです?持っている力とやらで私を呪ってみますか?やれるものならやってみせてください」

「…なッ!!」

「未来が見えるなら何故私の手を避けれなかったんです?病を治せるなら何故今になっても治せないんですか?悪霊が見えるですって?ふざけないでください。だったら今あなたの目に何が映っているんですか」

「な、何って……」

「何も見えていないんでしょう?教えてあげますよ。今、私にはある妖が憑りついています。それが見えないで、何が悪霊が見える、ですか。何が霊能力者ですか!馬鹿にしないで!!」

女は結の勢いにたじたじになるが、妖がいるという言葉を聞いて、しめたと言わんばかりに口を出し始めた。


「あ、妖ですって?あなた何を言ってらっしゃるの?あなた、私の力を否定するためにそんな嘘をついて。やっぱり子供ね。もし、本当にそこに妖がいるというのなら証明なさい、この場で、私の目の前で」

「いいですよ……【ハク】そこの風呂敷取って」

結がそう言うと、女の前で松葉色の風呂敷包みがふわふわと空中に浮かんで結の元へ飛んでいるではないか。


占い師は愕然とし、信じられないとかぶりを振る。

「…う、ウソ…!!?な、何かのトリックよ!」

そう言った瞬間、突然女が座っていた椅子が後から引き抜かれ、女は「きゃあっ!!」と声をあげて椅子から転げ落ちた。

そして彼女は、ぐっと人の手によって首が絞めつけられたような感覚に陥った。


「あ゛…っ!!うううぅ…!!」

首を締め付ける何かをのけようと手を伸ばすがそこにはやはり何もない。

「【ハク】やめなさい。それはやっちゃダメ」

結がとめようと呼びかけるが、中々力は緩まず、

最終的に結が近づいて、何もないはずの宙をゴツンと叩き、ようやく首を絞める力は弱まった。


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