妖あやし、恋は難し
不治の病の正体
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「おい」
「はい?」
「お前…何をしてるんだ」
結は巫女装束に着替え、部屋の四隅に四角い紙を貼っていた。
全てが終わると立ち上がり、さも当然のように湊の目を見て言う。
「何って、お姉さんを助けるんですよ」
◆
「た、助けるって…そりゃあ頼んだが、姉貴は病気なんだ、お前がどうこう出来る話じゃ…」
「病気なんかじゃないですよ」
「…は?」
結は占い師が売りつけた物が並べられているテーブルに近づきそれを物色しながら説明を続ける。
「お姉さんは不治の病なんかじゃない。正体は【妖】です、それも本来なら何の害もないもの。それが占い師さん、あなたの持ってきた変に力のある道具のせいで彼女に憑りつき離れられなくなった…理不尽に縛り付けられた【妖】が、生きるために、憑りついた人間の霊力を吸い取らざるを得なくなったんです」
だからその妖を解き放つことさえ出来れば、お姉さんの病気は治る。
「ただ、私がこの病室に入ってから気になってたんですけど、【妖】の姿がちゃんと見えないんです。確かにそこにいるのは分かるんですけど…もし、私の勘が正しかったら、この道具の中にその類の気配を消す道具もあると、思って、、」
それから道具をごそごそと漁り、「あ、これ!」とお札を取り上げた。
それは結でも分かるほど力が込められた霊符だった。
おそらく売り付けた道具の中に本当に使える物が混じっていて、用途も知らずに渡していたのだろう。
「…お二人とも、多少場が荒れます、お気を付けください」
結はそう言うとその霊符を右手に持ち、左手の人差し指と中指を立てて念じる。
次の瞬間、左手のそれは青い炎を上げて燃え、同時に病室内で爆風が起こった。
湊と女も、突然起きた風を防ごうと顔を腕で庇う。
結はその艶やかな黒髪を風に巻きあげながら、遥が眠るベッドの方をじっと見た。
彼女の翡翠色の瞳に映るのは、それまで薄らとした靄程度にしか映ってなかったもの。
遥の身体と幾数の鎖で繋がれた巨大な【化猫】だった。