妖あやし、恋は難し
しばらく結の力とペンダントに込められた力が拮抗する。
霊符ごしだったが、結の手のひらが熱で焦げる。
(……ッッ!! も、もう少し…!ああ、熱いッ、でもここで離したらダメよ結…!!)
掌の中ではじける火花に熱に、痛みに、何とか耐え、力を与え続ける。
すると、
ペンダントに、ピシッ!っと音を立ててヒビ割れ、
そして
ようやくそれは、遥と化け猫を繋いでいた鎖と共に粉々に砕け散った。
◆
またしても病室内で風が起こる。
初めに結がこの病室の四隅に札を貼って結界を作っていたことで、部屋の外から中が見えないようにしていた為、中の騒ぎは気づかれていないようだった。
「はあっ、はあ、はあ…!!」
結が見上げる先では鎖から解き放たれた化猫が落ち着きを取り戻し始めていた。
大きな瞳から赤い色が抜けていき、結を見つめる。
「化猫様…」
『フー、フー……主ガ…我ノ呪縛ヲ解イタカ』
「はい。時間がかかり、申し訳ありません」
『良イ…我ヨリ、女ヲ…』
化猫はかなり力を持つ高齢の妖だったのだろう、人間の言葉を話せるほどとは思っていなかったが。
(とりあえず化猫様が怒ってなくて良かった…最悪、怒って暴れ出したら封じなきゃいけないとおもってたけど取り敢えず安心していいかも)
ほっと息をついた結はお言葉に甘え、遥の方を診てみる。
脈も安定しているし呼吸も乱れていない、心電図も異常は示していないし、寧ろ最初の頃より健康的な数値だ。
顔色も心なしか良くなってる。
結の霊力を少しばかり譲渡して、湊の方を振り返った。
妖が見えず何が起こっているか分からないでポカンと座り込んでいた湊は、振り向いた結の顔を見て目を丸くする。
結は笑っていたのだ。
初めて彼女に笑みを向けられたことに湊の呼吸が一瞬とまる。
「お姉さん、もう大丈夫ですよ」
「え、…」
「まだ目は覚ましてませんが、すぐに気が付くと思います」
「ほ、ホントか…!!」
「はい!」
その時の結の笑顔は本当に美しく、
湊の目にひどくハッキリと、焼き付いたのだった。