妖あやし、恋は難し
「皇さんの怖い方? ああ、彼ならまだ病室よ」
そう聞いた結は、とりあえず病室に向かう事にした。
巫女装束は流石に目立つのでここに来た時の服に着替えて。
病室につき、窓の隅から中をのぞく。
そこには確かに二人がいた。
上半身を起こしさっきまでが嘘のように元気にニコニコ笑う遥
普段とは違うぶきっちょだがやわらかい表情でそんな姉を見つめる湊
(楽しそう…あんな怖い顔してたのに…)
結は驚きで目を見開く。
こうしてみると二人が姉弟という事が嫌でもよく分かる。
怖い顔さえしてなければ湊はかなり美形の類に入るだろう、遥と同じように。
ついでに暴力をしなければ。
ズキズキと痛むほっぺに手を伸ばし、結は苦い顔をする。
あの時なぜ、庇ってしまったのか。
ほとんど無意識、体が勝手に動いていた。
ただ、あのまま彼が激情にまかせ女を殴っていれば、あらぬ騒ぎになっていた。
そして悪者になっていたのはきっと彼だ。
(たぶん…理不尽に責められる彼を、見たくなかったんだろうな…)
「だって…あの人、あなたにそっくりなんだもん。ねぇ…【ハク】」
結が問いかけるそこには、人の目に映らぬものが。
額に伸びた一本角
長く白い白髪
切れ長の目、眉間の皺
喪服のような真っ黒な着物
煙管をふかすその男
【ハク】
結にその名を与えられた【鬼】だった。