妖あやし、恋は難し
二度あることは三度ある
隣の席のガードマン
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今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は、きぼう号 博多行きです。途中の停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪、新神戸、岡山、福山、広島、小倉です。
新幹線の車内アナウンスが響く。
結は窓際の指定席に腰を下ろし、その音に耳を傾けていた。
すっかり真夏、外はサウナのような暑さである。
結の頬にも汗が伝う。
クーラーの良く効いた車内が天国のようだ。
今日はこのまま、京都へ向かう。
旅行ではない。
【陰陽師】の依頼で向かうのだ。いつもの松葉色の風呂敷を携えて。
停車していた新幹線が走り出す。
急速に変わっていく外の景色を眺めながら(遠出は久しぶりだなあ…)などと思っていると、窓に映る人の顔が目に付いた。
いや、人ではない。
【鬼】の顔がである。
「……【ハク】…何やってんの?」
そこに映っていたのは一本角で、長い白髪の【鬼】、【ハク】だ。
彼は腕を組み、煙管をふかして通路の入口をじーーっと睨み付けていた。
『いや、何か…嫌な気配が……』
「嫌な気配? 悪霊でも来たの?」
『…そんな感じじゃあ、ないんだが』
「?? まあいいじゃない。久し振りの長旅になるよ、せっかく隣開いてるんだから【ハク】も座れば?」
『……ああ、その前にここを一回りしてくる…』
「そう?」
意外にも心配性の【鬼】はそう言って、眉間に皺をよせ、電車内を周回しに行った。
結はそんな、自分の目にしか映らない【鬼】の背を視界から消えるまで見つめ、窓の外に視線を戻した。